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GRGと金融工学・統計解析

趣味で金融工学や統計解析を勉強しており,このブログでは自分が面白いと思ったことの紹介などをしていきます.色々な方との議論などできたらいいなぁと思います.

マルチンゲールアプローチ(2)

前回のページ:マルチンゲールアプローチ - GRGと金融工学・統計解析

はじめに

前回は,マルチンゲールアプローチで躓きやすい部分について少しばかり触れた(躓いているのは,私だけかもしれないが・・・).前回の内容を簡単にまとめると,リスク中立世界での株価過程を見るとなんか直感と合わないような形をしているけど大丈夫なのか,ということに関してであった.今回は,現実世界の株価過程とリスク中立世界の株価過程のつながりについてより深く見ていくことを目的とする.

現実世界とリスク中立世界の株価過程の関係

復習となるが,リスク中立世界での株価過程S(t)は以下のように表せる.

{ \displaystyle
dS(t) = rS(t)dt + \sigma S(t)dW^{Q}(t) \dots (1)
}

しかし,私たちが生きている現実世界の株価過程は以下のように表せる.

{ \displaystyle
dS(t) = \mu S(t)dt + \sigma S(t)dW^{P}(t) \dots (2)
}

前回では,この両式は同じ株価過程を意味しているという,いわば前から知っている結果を用いて,次の式が成り立つことを示した.

{ \displaystyle
dW^{Q}(t) = \frac{\mu -r}{\sigma} dt + dW^{P}(t) \dots (3)
}

とにかく価格評価の計算をしたい人にとって,この議論の流れは別に悪い流れではない.実際に計算するときには,(1)式のようにドリフト項がrS(t)dtとなるようにとりあえず置いて,後々つじつまが合うように(3)式を計算すれば,安全資産B(t)を基準財としてマルチンゲールに持っていけるからである.

しかし,安全資産以外の資産を基準財にしたほうが議論がしやすい時も往々にしてある.より強調して言うと,「とりあえずドリフト項をrS(t)dtにすればいいんだろ」という考えだけでは次に進めない(進みにくい)ことが起きる.そこで,(2)式から(1)式に至るまでのプロセスを理解しておくと,そのような場合でも対応することができるようになる.そのプロセスは,以下の三つの事柄に分解することができる.

  1. 安全資産で割った資産価格を現実世界で考える.
  2. 安全資産で割った資産価格はリスク中立世界ではマルチンゲールになるという結果を用いて,リスク中立世界での資産価格の過程を考える.
  3. 安全資産で割っている形を直す.

では一つ目から考えていこう.ここでは,伊藤の公式は既に知っているものとして進めていく.安全資産で割った資産価格\( \frac{S(t)}{B(t)} \)の過程は伊藤の公式を用いると次のようになる.

{ \displaystyle
d\frac{S(t)}{B(t)} = (\mu -r)\frac{S(t)}{B(t)}dt + \sigma \frac{S(t)}{B(t)}dW^{P}(t) \dots (4)
}

この(4)式を式変形すると次のようになる.

{ \displaystyle
d\frac{S(t)}{B(t)} = \frac{S(t)}{B(t)}\sigma ( \frac{\mu -r}{\sigma}dt + dW^{P}(t) ) \dots (5)
}

では,現実世界での資産価格過程を求められたので,次に二つ目について考えてみよう.ここでは,安全資産で割った資産価格はリスク中立世界ではマルチンゲールになるという結果はgivenとして考える.\(dW^{Q}\)と\(dW^{P}\)をうまいこと関係させて,リスク中立世界でマルチンゲールとしたい.そのためには,価格過程にドリフト項が残っていてはマルチンゲールにはならないため消したい.このことを考えながら,(5)式を見ると括弧内の形が(3)式の右辺と一緒ではないか!(本当は(5)式から,(3)式が出ているのだが).では,(3)式が成り立つと仮定したら,(5)式からドリフト項が消えて解決ではないかと考えたくなる.いや,確かにその通りなのだが,厳密にはそんなに簡単ではなく,ギルサノフの定理によって,(3)式のように考えても大丈夫である,と裏で保障されているのである.ギルサノフの定理に関しては他の本やサイトを参照してもらいたい.まとめると,(3)式を(5)式に代入して,次の式を得ることができる.

{ \displaystyle
d\frac{S(t)}{B(t)} = \sigma \frac{S(t)}{B(t)}dW^{Q}(t) \dots (6)
}

最後に,最終的な目的であるリスク中立世界でのdS(t)を(6)式を用いて求める.(6)式は安全資産で割られているため,その形を変形させることでdS(t)が得られそうだ.結果を言うと,もう一度伊藤の公式を\( \frac{S(t)}{B(t)} \)とB(t)に対して用いることで,(1)式を得ることができるのである.

これらのプロセスによって(1)式と(2)式が関係していることを理解することで,両式が同じことを示していることも把握することができるだろう.そして,このプロセスは別に基準財として安全資産を選択していない時にも使えるということは知っておくべきであろう.


参考文献

ファイナンスのための確率解析Ⅱ, (著) S・E・シュリーブ,(訳) 長山いづみ