GRGと金融工学・統計解析

趣味で金融工学や統計解析を勉強しており,このブログでは自分が面白いと思ったことの紹介などをしていきます.色々な方との議論などできたらいいなぁと思います.

債券運用と投資戦略

紹介する本

今回紹介するのは,債券運用と投資戦略(第四版):野村證券株式会社 太田智之(監修)です.

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株式の運用に関しての理論や実務などを説明している本はとても多いですが,債券の運用について説明している本は比較的少ないのが現状です(特に日本語の本では).その中でも,比較的最近出版されたこの本の帯には「マイナス金利の状況下におけるALMなどのテクニカル面についての進展」のようなとても興味を引く文言が書いてあったので購入してみました.

本の内容

第一章では,日本の債券市場の変遷について説明がなされており,近年の質的・量的金融緩和についても軽くではありますが触れています.どのようにして債券市場が今の形になったのかということに関して知りたいときには,この章を読めばその流れを掴むことはできると思います.

第二章では,債券投資の分析の基礎について書かれています.利回りやデリバティブに関してなど金融工学に少し触れている方なら皆知っているような内容ではありますが,実際のデータを用いたグラフや表などを用いて,理論と現実のギャップはあるか,現実ではこのようになっているなどの実務寄りの視点も入れて文章が書かれているので,付加価値がある章だと感じました.

第三章では,債券ポートフォリオについて説明がされています.マーコヴィッツの平均・分散ポートフォリオなどに触れたことがある方には理論面では退屈な章ではあるかもしれません.しかし,この本は実務の方が書いているという特徴が全面に出ており,所々の文章の中に理論と実務のギャップについて触れているため,一回は読んでみるといいかもしれません(その多くは広く知られている事実ではありますが,その内容の再確認という意味でも有用です).また,負債と資産の両方を見る必要性(ALM)についても触れており,債券をどのように運用するかについても書かれています.例として,基本ではありますが,デュレーションマッチングなどの説明がされています.そして章の最後には,投資先を海外にまで伸ばした債券運用の説明を行なっています.為替の影響はどの程度強いのか,どのようにヘッジすればいいのか,について例を用いて書かれています.

第四章は,実務における言葉の定義や計算の仕方などがまとめられており,実際の現場でどのように計算が行われているのかを軽く知ることができます.実際にはもっと複雑な計算は行なっているとは思いますが,その基礎を学ぶには良い章だと思います.

感想

実務の方が書かれた本だけあって,多くの実例があり,文章の端々に理論とのギャップを感じさせるように書いてあるなぁ,という印象でした.裏では「理論のような綺麗な世界なんて無いんだよ!コンチクショウ!」と思いながら書いたのかなぁと思いながら読んでいました.しかし理論を無視しているわけではなく,うまくバランスをとって使うことが重要である,といったことも主張しているような部分もあり,なかなか上手いなと感じました.この「バランス良く」ということは当たり前のように感じますが,実際の現場で行うとなると,おそらくとてつもなく難しいことなんだろう,と思わせるような本でした.

理論面をもっと知りたいという方が読む本では無いと思いますが,実務ではどのように行なっているのだろうと興味がある方には良いかもしれません.理解とはいかないまでも,感覚を掴むという意味では良い本だと感じました.

一つ残念であったのは,マイナス金利が導入されたことで,実務のリスク管理や債券運用の仕方にどのような問題が生じ,それをどのように解決に導いたのか(または,解決するつもりなのか)についてあまり書かれていなかったことです.私個人としては,その部分が一番興味があった部分だったので少し残念でした.ですが,全体としてはとてもよくまとまっていて,良い本だと感じました.

最後に

私は本を出版するレベルの方に意見するほどのものでは無いです.あくまで感想ですので,そこのところよろしくおねがいします....